| 第34回 穂高よ、さらば |
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11月4日 東の空が赤く染まりだした。登っているうちにだんだんと辺りが明るくなってくる。快晴。富士や南アルプスが墨絵のように浮かび上がっている。頂上付近で先行していたカメラマンに追いついた。アレッ、花子さんだ。「落石事故」の現場に三脚を据え、日の出を待つ。涸沢岳から“最後の日の出”を見ようと、早起きしてやってきた。ほぼ毎日ここから“定点観測”している花子さんと違って、朝に弱い私は、恥ずかしながら、頂上からの日の出はきょうが初めて。本日が下山日なので、つまり山頂からは「最初で最後の日の出」を見ることになる。
午前六時。山やまはすでにくっきりと姿を浮かび上がらせている。立山・鹿島槍・妙高・志賀高原・四阿(あずまや)山・浅間山・蓼科山・八ヶ岳・富士山・南アルプス……。茜色の空の下に青く沈んだ山やまの輪郭が浮かびあがる。 六時十分。蓼科山北方の山裾がひときわ高く輝きだし、最初の光がこぼれる。槍ヶ岳の東斜面がみるみる紅く染まる。薄く纏った雪の衣を薄紅色に染めながら、山やまに朝がやってくる。日の出から十分もすると山肌は色あせ、山やまはふだんの表情にもどる。カメラを肩にかけ、小屋へもどろう。
山頂を巻いて下りにかかろうとするあたりで、八ちゃんに会った。きのうの朝は奥穂、今朝は涸沢岳、というわけか。考えることは同じだなぁ。早朝の稜線を吹き抜ける風は耳がちぎれそうに冷たい。小屋の寒暖計を見ると氷点下10℃。寒いわけだ。 長らくお世話になった部屋の片付けをすませる。いよいよ小屋ともお別れである。残留組の見送りをうけて出発する。太陽の軌道が低くなり、白出沢は午後にならないと日が当たらない。朝のうちは路上が凍結して滑りやすいので、慎重に下る。セバ谷のあたりまで下ると、吹く風は柔らかくなる。秋の風だ。 白出荷継ぎ小屋の手前でようやく日なたに出る。小屋跡でザックを降ろし、ヤッケ(アウター)を脱いだ。うっすらと汗をかいている。うららかな小春日和。すっかり葉を落としたダケカンバやナナカマドが、晩秋の気配を漂わせる。薄く雪を纏った飛騨尾根を見あげながら心のなかでつぶやいた。 「穂高よ、さらば。また来る日まで」 |
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